治療後有痛性神経障害をご存じでしょうか?
糖尿病治療により急激に血糖が改善した場合に起こる有痛性の神経障害のことを言います。
刺すような痛みとしびれで、夜寝られないほど痛むこともあります。
1ヶ月で2%以上HbA1cが下がると、発症リスクが高くなるという報告もありますので、「血糖コントロールはゆっくり行う」ということが推奨されており多くの医師は十分に気をつけて治療を行っています。
しかし一方で、HbA1cの低下速度をコントロールすることは至難の業です。
糖尿病患者さんが食事や運動療法に真剣に取り組まれ、穏やかに効く糖尿病薬1剤でも追加されれば、(もともとのHbA1cが高ければ)1ヶ月で2%下がることも結構あります。
そもそも、血糖コントロールのために入院すれば、1ヶ月で2%どころか(もともとのHbA1cが高ければ)その倍も下がってしまいます。
また実際には、急激に血糖が良くなってもほとんどの人は有痛性神経障害を発症しません。
ただし、日々患者さんを診ていて実感するのは、治療を始める前に長期間血糖が高かった人(またはいつ頃から血糖が高かったかわからない人)、痩せている人、もともとの飲酒量が多い人は要注意ということです。
もともと神経障害が少し進んでいる人、ということかもしれません。
有痛性神経障害を発症してしまうと、つらい痛みに悩まされます。
一般的に使用する痛み止めでは効果が得られず、一時的に強い痛み止めを使用することもしばしばあります。
半年程度(長い人では1年程度)持続したあと、だんだん良くなっていく場合が多いです。
なぜ痛みが生じるのかについては、神経の変性や再生に関連して痛むのではないかと考えられていますが、原因はよくわかっていません。
「血糖がよくなっているのに痛みが出る」というのがなんともつらいところですが、「治療後有痛性神経障害があった患者さんでは、神経の再生が活発に行われていた」という報告がごく最近ありました(J Diabetes Investig.12: 1642-1650,2021)。
この研究では、角膜共焦点顕微鏡で角膜の神経線維を実際に観察して神経障害の進行を評価しています。
すると、有痛性神経障害の患者さんでは、痛みを伴わない神経障害の患者さんと比較して、神経長や密度が有意に上がっている結果でした。
痛みは本当につらいものですが、長年の高血糖によりダメージを受けた神経の修復が行われている過程なのかもしれません。