SGLT2阻害薬とGFR変化、心房細動の三角関係

SGLT2阻害薬が心房細動の発症リスクを減らすことが期待されている

血糖値を下げるだけでなく、心不全にも有効であることが明らかになっているSGLT2阻害薬ですが、不整脈のひとつである心房細動の抑制効果についても最近期待されています。

ダパグリフロジンというSGLT2阻害薬の心血管リスクについて調べられたDECLARE-TIMI 58という大規模臨床試験があるのですが、

その事後解析で、なんとダパグリフロジンを投与すると心房細動/心房粗動の発症リスクが下がったと報告されています(Circulation. 2020; 141: 1227-1234.)

 

どうして不整脈が起こりにくくなるの?
モッさん
モッさん
Gajigaji Dr
Gajigaji Dr
利尿作用が心房への負担を軽減することや、SGLT2阻害薬が心房細動に関係する心外膜脂肪を減らすこと、交感神経の抑制作用や血圧低下、減量効果などが関係していると推測されています。

 

さらに、2021年にpublishされたメタアナリシスにおいてもSGLT2阻害薬は心房細動を抑制したと報告されています。(Cardiovasc Diabetol 20, 100,2021).

ふーん、今日も勉強になりました(心房細動ってなんだろう…?)
モッさん
モッさん
Gajigaji Dr
Gajigaji Dr
いえいえ、ここからが本題です♪

SGLT2阻害薬による体液量や腎機能(GFR)への影響については、いまだ不明な点も多い

SGLT2阻害薬が最初に使われるようになった時に、体液量の減少(脱水)により脳梗塞などが増えるのではないか?と懸念されました。

その後行われた多くの研究や臨床データより、体液量の減少については投与のごく早期には一時的に認められるものの、その後は元に戻ると考えられています。

SGLT2阻害薬によるGFRの変化についても様々な議論がなされました。

投与早期にGFRが少し低下する場合もあるが、腎尿細管へのストレス低減により、その後はむしろGFR低下速度が緩徐になり長期的には腎保護に働くと現在は考えられています。

 

しかし、SGLT2阻害薬開始後早期にGFRが大幅に低下する患者さんが確かに存在します。

このような患者さんでも、心房細動や心血管イベント、心不全などに良い影響を与えるの?という問いに対して行われた試験をご紹介します。

SGLT2阻害薬による投与後早期のGFR低下と、心房細動との関連を調べた研究

11769人の2型糖尿病患者さんを対象に行われたChang Gung Memorial Hospital(台湾)のデータベースを用いて行われた研究です。

SGLT2阻害薬が初めて投与された20歳以上の2型糖尿病患者さんを、投与後早期のGFR低下度によりカテゴリー化して、心血管イベント/心不全や、心房細動、複合腎イベントへの影響について調べられました

※投与後早期:投与後4~12週と定義されています。

SGLT2阻害薬を投与された患者さんのうち、投与早期に4%で30%以上のGFR低下、8%で20~30%のGFR低下を認めた。

「GFRが30%以上低下」ってイメージしにくいですが、

例えば、GFR70 の人ならGFR49まで低下(30%の低下)、GFR55の人ならGFR38まで低下(30%の低下)という感じですね。

それは結構下がってるね…
モッさん
モッさん

 

Gajigaji Dr
Gajigaji Dr
各群のGFR推移が下図になります。GFRが投与後早期に一旦低下しても、ある程度は戻っていきますね。

 

Gajigaji Dr
Gajigaji Dr
さて、結果を見ていきましょう!

投与後早期にGFRが30%以上低下した群では、心房細動の発症率が上昇した

30%以上GFRが低下した人では、低下しなかった人と比べて心房細動の新規発症率が上昇しました。

 

すなわち、GFRが早期に30%以上低下した人では、低下しなかった人と比較して2.2倍のリスク上昇が認められました

この結果(aHR:adjusted hazard ratio)は、性別、罹病期間、合併症、HbA1c、BMI、脂質データや抗血小板薬、βブロッカー、スタチン、RAS阻害薬、利尿薬、糖尿病薬の使用で補正されています。

 

 

また、ベースラインのGFRが60以上と60未満の人に分けた解析も行われましたが、両群ともにリスク上昇がみられました

ちなみに、本研究では、投与後早期のGFRが30%低下した患者さんではGFRが低下しなかった人と比較して、心血管イベントや複合腎イベントのリスクも少し上昇していました。
薬を始めて、GFRが大幅に低下する人って、どんな人だったの?
モッさん
モッさん
Gajigaji Dr
Gajigaji Dr
そこは大切なポイントですね!
この研究によると、SGLT2阻害薬投与で早期にGFRが大幅に低下した人の特徴は、利尿薬を使用している、脳梗塞の既往がある、高齢者、女性、低BMI(やせている)などであったようです。
ちなみに、スタチンを服用している患者さんではGFR低下リスクが有意に低い結果でした(オッズ比0.81)!
なんだかよくわからないけど、スタチンって色々すごいね…
モッさん
モッさん
※ひとつ注意していただきたいのは、この研究では、SGLT2阻害薬を服用して早期にGFRが30%低下した人とGFRが低下しなかった人との比較研究であり、SGLT2阻害薬を服用していない人との比較を行っているわけではありません
じゃあ、薬を始めてGFRが低下しちゃった人は、薬をやめたほうがいの?
モッさん
モッさん
Gajigaji Dr
Gajigaji Dr
そこは結論がでていません…
先生、はっきりしないなあ…
モッさん
モッさん
SGLT2阻害薬は様々なよい効果があることがわかってきていますので、投与早期のGFRの低下度により一概に中止したほうがよいとは言えません。
ただし、投与後早期のGFRには注意を払っておいたほうがよさそうですね
今後、さらなるデータが集積されるとよいと思います。
Impact of the initial decline in estimated glomerular filtration rate on the risk of new-onset atrial fibrillation and adverse cardiovascular and renal events in patients with type 2 diabetes treated with sodium-glucose co-transporter-2 inhibitors.Chan YH, et al. Diabetes Obes Metab.2021 May 28. doi: 10.1111/dom.14446. Online ahead of print.